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東京高等裁判所 平成10年(ネ)5497号 判決 1999年6月24日

奈良市富雄北二丁目三番一二号

控訴人

イーグルクランプ株式会社

右代表者代表取締役

津山初雄

右訴訟代理人弁護士

玉木賢明

右補佐人弁理士

畠豊彦

東京都中央区日本橋中洲三番一三号

被控訴人

レンフロージャパン株式会社

右代表者代表取締役

伊東祐次

右訴訟代理人弁護士

近藤惠嗣

右訴訟復代理人弁護士

柳誠一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

当審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

控訴人は、原判決の取消し及び原判決二頁の「第一 請求」に記載のとおりの判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた(なお、控訴人は、当審における予備的請求原因として、被控訴人の債務不履行責任を追加した。)。

二  事案の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決二頁末行ないし一〇頁七行の「第二 事案の概要」に記載のとおりである。

1(当事者間に争いのない事実の追加)

原判決四頁七行目の次に改行して、次のとおり加える。

「4 控訴人と被控訴人との間においては、本訴前に、控訴人を原告、被控訴人を被告として、被控訴人の製造、販売していた荷役用クランプが控訴人の本件意匠権を侵害するものであるか否かについて争われていた意匠権侵害訴訟が係属していた(東京地方裁判所平成六年(ワ)第二一五三号事件)。平成七年四月一三日、この訴訟において、「被控訴人は本和解成立後、被告製品を製造・販売しない。」との条項を含む和解が成立し(前訴における和解。ここでの「被告製品」とは本訴の被告製品とは別のものである。これを以下「前訴被告製品」という。)、右条項の「被告製品」の下に「(被告製品よりも原告意匠に類似する方向で設計変更した製品を含む。)」と括弧書きの文言が付された。」

2(控訴人の請求(当審における予備的請求の追加を含む。)の要約)

原判決四頁八行目かち五頁四行目までを次のとおり改める。

「控訴人は、本訴において、被控訴人に対し、被告製品の製造販売が本件意匠権を侵害するものであるとして、本件意匠権(予備的に債務不履行)に基づき、被告製品の製造販売の差止めを求めるとともに、本件意匠権侵害又は前訴における和解の債務不履行に基づく損害賠償として、被控訴人が被告製品の製造販売により得た利益相当額一五一九万五六〇〇円(被告製品の製造販売の開始から平成九年一二月二六日(本訴提起日)までの間の売上額二五三二万六〇〇〇円に利益率六〇パーセントを乗じた金額)及びこれに対する本件意匠権侵害行為又は訴状送達の日の後である平成一〇年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている。」

3(争点の追加)

五頁六行目を次のとおり改める。

「1 被告意匠は本件意匠と類似するか。

2 被告製品の製造販売は、前訴における和解に違反するか。」

4(当事者の主張の表題の変更及び誤記の訂正)

(1)  五頁八行目を「1 本件意匠権侵害に関する控訴人の主張」に改める。

(2)  七頁七行目の「短円柱連絡部」を「短円柱連結部」に改める。

(3)  九頁一行目を「2 本件意匠権侵害に関する被控訴人の主張」に改める。

5(予備的請求についての当事者の主張)

一〇頁七行目の次に改行して、次のとおり加える。

「3 債務不履行に関する控訴人の主張

本訴の被告製品は、前訴被告製品の鋳型を用いて、出来上がる製品に若干厚みが増す修正を加えた上、柄部に注意しなければ見て取れないような山裾状の模様を付加するという小細工がされただけのものである。このことと和解成立の経緯を勘案する限り、本訴の被告製品は、前訴における和解条項で約定された「被告製品」そのものである。

そうだとすれば、本訴の被告製品を製造・販売した被告の行為は、和解による合意内容の不遵守であり、債務不履行を構成する。そして、この債務不履行により控訴人が被った損害額は、本件意匠権侵害に基づく損害賠償請求で主張したのと同額である。

4 債務不履行に関する被控訴人の主張

本訴の被告製品には、柄部に本件意匠にはない富士山型の厚みのある部分が設けられており、これは、前訴被告製品の意匠にはなかったものである。その存在は一目瞭然なので、前訴被告製品の意匠と本訴の被告意匠は明らかに異なる。富士山型の厚みのある部分は、本件意匠にはないから、被告意匠が、前訴被告製品の意匠よりも、本件意匠に類似する方向で設計変更されたものでないことは明らかである。したがって、債務不履行に関する原告の主張は理由がない。」

三  争点1に対する当裁判所の判断

次のとおり付加、訂正するほか、原判決一〇頁八行目以下の「第三 争点に対する判断」の一から五までに示されているとおりである。

1  原判決一二頁一〇行目の「乙第一号証の一ないし五」を「乙第一号証」に改める。

2  一七頁四行目から五行目にかけての「略三角形」の次に「(被控訴人が主張する「富士山型」)」を加える。

3  一九頁六行目から八行目を次のとおり改める。

「しかしながら、水平吊環部及び垂直吊環部を具備する点が新規性を有することについては、これを的確に認めるべき証拠はなく、本件意匠と被告意匠との対比において看者に印象を与えるのは、前記三3(原判決一八頁三行目から一〇行目)に示したように、柄部の構成の違いの部分というべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。」

四  争点2に対する当裁判所の判断

甲第一一号証(前訴における和解調書)に添付の別紙物件目録(1)ないし(3)(前訴被告製品)の図面と本訴の被告意匠とを対比すると、本訴における被告製品の意匠は、前訴被告製品の意匠に、柄部の構成として垂直吊環部を頂部付近にまで取り込んだ略三角形(富士山型)の部分を形成させたものにほぼ相当し、この略三角形の部分の存在及び垂直吊環部頂部からの外縁の屈曲位置及び角度において前訴被告製品の意匠と相違することが認められる。したがって、本訴の被告意匠が前訴被告製品の意匠と同一のものであると認めることはできない。

次に、本訴の被告意匠の柄部の略三角形の部分は本件意匠にないものであり、また、本訴の被告意匠と前訴被告意匠は、屈曲部の位置が本訴の被告製品の方が上部にあり、屈曲角度が本訴の被告製品の方がよりなだらかである点において、垂直吊環部頂部からの外縁の形状の差異があり、この差異は、本件意匠の屈曲部よりもその位置が更に上にあって、本件意匠の屈曲部の角度よりも更になだらかになる方向のものと印象づけられる。したがって、本訴の被告製品は、前訴の和解条項中の「被告製品よりも原告意匠に類似する方向で設計変更した製品」に該当するものということもできない。

よって、前訴の和解の債務不履行を原因とする控訴人の請求も理由がない。

五  結論

以上のとおり、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、本件控訴及び当審における予備的請求のいずれも棄却すべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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